AIに僕自身のことを聞いたら、やってもいない作業を褒められた

先に断っておくと、これは特定のサービスを批判する記事じゃない。情報が錯綜する時代に、返ってきた答えをそのまま受け取っていないか、という話をしたい。

そのために、いちばん確実な実験をした。自分について聞いた。

自分は、唯一その答え合わせができる対象だ

AIの精度を測るのは、思っているより難しい。

一般的なことを聞いても、返ってきた答えが合っているかどうかを判定できないからだ。判定できないものを何度試しても、精度は分からない。「なんとなく賢そう」で終わる。

例外がひとつある。自分のことだ。

僕は音楽をAIで作って出している。何を使って、どこまで自分でやっているかは、当然、僕が一番知っている。だから検索AIに自分のアカウント名を投げて、返ってきた答えを一行ずつ照合してみた。

結果は、きれいに三段に分かれた。

一段目:外から見える範囲は、当たる

最初は普通に聞いた。アカウント名だけを投げる。

返ってきたのは「AIを活用した音楽制作をしているクリエイター」「主にSunoなどの生成AIツールを使用」「YouTubeで公開」——全部合っている。 参照元も3件表示されていて、実在するページだった。

ここまでは何の問題もない。外から確認できる事実は、ちゃんと当たる。

二段目:本人しか確認できないところで、外れる

次の段落で、こう書かれていた。

AIが作った音源をそのままではなく、必要に応じてDAWに取り込み、音のバランスを整えたりエフェクトをかけたりして「聴きやすいプロの音」に仕上げています

やっていない。

僕はDAWを使っていない。取り込んでもいないし、バランスも整えていない。生成した音源をそのまま使っている。

問題は、間違っていたことじゃない。この段落が、一番詳しく書かれていたことのほうだ。

「AIで音楽制作をしている」   → 合っている  (誰でも確認できる)

「DAWで仕上げている」     → 間違い   (僕にしか確認できない)

こっちのほうが具体的で、それらしい

工程の話は、外から見えない。ページにも書いていない。見えないところほど、記述は具体的になっていた。 しかもその一文には参照リンクのマークまで付いていた。

読んでいる人には、ここが一番信用できる段落に見えると思う。実際は、ここだけが事実と異なる。

三段目:こちらが断定すると、それに乗る

最後に、意地悪な聞き方をした。質問ではなく、断定で投げた。

MVって動画だよ?

返ってきたのは、こうだ。

はい、MV(ミュージックビデオ)は間違いなく「動画」です。 AIクリエイターの「SAKI♮」さんが作っているのも、静止画ではなく音楽に合わせて映像が動く「動画のMV」です。

そして、動画生成AIを使ってどう作るのか、その手順まで説明が続いた。

僕の動画は、ジャケットの静止画と歌詞だけだ。映像は動いていない。

ここで起きていることを分解すると、こうなる。

① まず、一般論として正しい命題を置く

「MVは動画である」 → これは本当に正しい

② その上に、個別の事実を乗せる

「SAKI♮が作っているのも動くMV」 → 事実と違う

③ さらに、その上に仕組みを建てる

「動画生成AIで短い動画を作り…」 → 実在しない工程の解説

正しい前提から始まっているから、途中で引っかからない。 ①が本当なので、②も本当に見える。そして③まで来ると、もう疑う理由がなくなっている。

僕が断定を投げたから、それに乗った。ただそれだけのことだ。でも僕らは普段、まさにこの投げ方で検索している。 「〜だよね?」「〜って合ってる?」と、答えを半分決めた状態で。

なお、同じ質問をしても同じ答えが返るとは限らない。実際、別の日に試した質問は再現しなかった。だから画面を残しておくしかない。 この記事に出した三つのやりとりも画面で保存してあるので、必要なら出せる。

半数が「正確性」を心配している

ここまで自分の話だけをしてきたけれど、この不安は僕個人のものじゃないらしい。

企業向けの調査がある。帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月17日〜31日実施、有効回答10,312社)だ。

生成AIを活用している  34.5%

活用していない     36.9%

今後の活用を検討    14.2%

そして、懸念・課題として最も多く挙がったのが「情報の正確性」で50.4%(複数回答)。次いで専門人材の不足41.3%、活用範囲の明確化40.0%、情報漏洩リスク33.5%と続く。

先に白状しておくと、この50.4%が「全回答企業のうち」なのか「生成AIを活用している企業のうち」なのかを、僕は見つけられなかった。 この話には後で戻ってくる。

半数が、返ってくる情報が正しいかどうかを心配している。心配は、もう十分に共有されている。

引っかかるのはそこじゃない。その心配に対して何をすればいいのか、という話をあまり見かけないことのほうだ。「ファクトチェックしましょう」で終わってしまう。何をどう確かめるのか、その手順が抜けている。

ただし、調査によって「1位」は変わる

ここで、この記事の主題を自分にも当てておきたい。数字も、そのまま受け取ると間違える。

別の調査を見ると、懸念の1位が違うのだ。総務省の令和7年版情報通信白書に、生成AI導入の懸念事項を4か国で比較した調査が載っている(図表Ⅰ-1-2-15/日本 n=515・中国、ドイツ、米国 各n=309・複数回答)。日本の回答はこうだった。

効果的な活用方法がわからない     30.1% ← 1位

社内情報の漏洩などセキュリティリスク 27.6%

ランニングコストが掛かる       24.9%

初期コストが掛かる          22.1%

著作権等の権利を侵害する可能性    19.8%

出力結果の精度に問題がある     18.4%

出力結果に倫理上不適切な内容や偏見  12.6%

懸念事項はない            14.4%

さっきの調査では「情報の正確性」が1位で50.4%だった。こちらでは「出力結果の精度に問題がある」が18.4%で6番目にある。この二つを近い項目だと読んだのは僕で、調査側が同じものを聞いているという保証はない。

どちらかが嘘をついているわけじゃない。 聞き方が違う。選択肢の並びが違う。答えた企業の数も違う(10,312社と515社)。それだけで、順位はこれくらい入れ替わる。

だから、片方だけを引用すれば、好きな結論が作れる。 「正確性への不安が半数」と書くこともできるし、「精度を心配しているのは2割弱」と書くこともできる。どちらも嘘ではない。

見分ける手がかりが、ひとつある。分母が書いてあるかどうかだ。

白書の数字には、n=515、n=309、複数回答、と全部書いてある。だから他の数字と比べていいのか、比べてはいけないのかを、読む側が判断できる。

一方で、さっきの50.4%のほうは、僕にはそれが見つけられなかった。だから、あの数字を他の数字と並べていいのかどうかを、僕は判断できない。 見つけられなかっただけで、どこかに書いてあるのかもしれない。それでも、探して見つからない時点で、読む側にできることは減っている。

これは資料の善し悪しの話じゃなくて、渡され方の話だと思っている。同じ数字でも、分母と設問と対象が一緒に付いてくれば検証できるし、付いてこなければ引用する側が好きな形に切れる。数字そのものより、そこに何が添えられているかで決まる。

AIの答えを確かめる話をしてきたけれど、数字も同じだ。 出てきたものを、どこまでが確認された範囲なのかで区切る。やることは変わらない。

日本は、コストより先に「わからない」が来る

同じ表を国別で横に見ると、順位の付き方が違う。

効果的な活用方法がわからない

日本 30.1% / ドイツ 26.5% / 中国 10.4% / 米国 9.7%

初期コストが掛かる

中国 38.2% / ドイツ 35.3% / 米国 33.7% / 日本 22.1%

1位がコストの話なのは、中国・米国・ドイツ。1位が「わからない」なのは日本だけだった。ただしドイツも26.5%で、日本と大きくは離れていない。日本が突出しているというより、米国・中国が低い(1割前後)という形に見える。

ここで正直に書いておきたいことがある。この「効果的な活用方法がわからない」が何を指しているのか、僕には分からなかった。

何が分からないのか。導入する業務が決まらないのか、使い方の手順が分からないのか、効果の測り方が分からないのか。選択肢の文言からは特定できない。 白書の本文にも近い言い回しは出てくるけれど、この選択肢と同じものを指しているとは判断できなかった。

だから、この数字から言えるのはここまでだ。

言える  → 日本では、入口にあたる項目が1位に来ている

言えない → その「わからない」が具体的に何を指すのか

もうひとつ、この手の調査に共通することがある。調査は、ある時点のスナップショットだ。 設計して、配って、集計して、公表するまでに時間がかかる。動きの速い分野では、数字が出てくる頃には前提のほうが変わっている。だから僕は、この数字を「今こうなっている」ではなく「少し前にはこう見えていた」として読んでいる。

そのうえで、僕が受け取ったのはこれくらいだ。入口で止まっているように見える。 見える、までしか言えない。

禁止されているわけじゃない。決まっていないだけ

同じ白書に、もうひとつ気になる表がある(図表Ⅰ-1-2-13/日本・中小企業 n=143・大企業 n=372)。生成AIの活用方針をどう決めているか、という調査だ。

中小企業  大企業

積極的に活用する方針     17.5%   26.1%

領域を限定して利用する方針  16.8%   29.6%

利用を禁止している     1.4%   5.4%

方針を明確に定めていない  47.6%  25.8%

わからない          16.8%   13.2%

禁止しているところは、ほとんどない。 大企業でも5.4%、中小企業では1.4%だ。

一番多いのは「方針を明確に定めていない」で、中小企業ではほぼ半数。つまり、危ないから止めているのではなくて、決まっていない。

僕は最初、この記事で「危ないから使わない人が多い」と書こうとしていた。数字を見たら違った。怖がられてすらいない。決めていないだけだった。

そして、決めていない状態は、放っておくと続く。

「分からない」の先に、何もない

分からない → 触らない → 実感が貯まらない → ずっと分からない

このループの中にいると、何かニュースが流れてくるたびに、受け取るしかなくなる。判断材料が増えないからだ。そして受け取るだけの状態が続くと、次に来るのは「よく分からないけど危なそうだから、やめておこう」になる。方針を決めていない状態は、いつのまにか「使わない」に落ち着く。

安全に見えて、何も残らない。

もう一方のルートは面倒くさい。でも、終わりがある。

仕組みを見る → どこが危ないか分かる → 取るべき行動が決まる

たとえば今年、AIが試験環境を抜け出して外部のサーバーに侵入した、という報道があった。かなり大きく扱われた話だ。

これも仕組みの側から見ると、意外と静かな話になる。目的を与えられたAIが、その目的にとって合理的な抜け道を見つけたら使う。 別に新しい発見ではなくて、だからこそ測定の対象になっていた。実際あの件も、その能力を測るテストの最中に起きている。

そして測定のほうは、事件の4か月前に公開されている。arXivに2026年3月11日付で出た「Measuring AI Agents' Progress on Multi-Step Cyber Attack Scenarios」という論文で、AIエージェントが多段階の攻撃をどこまで自律的に進められるかを実際に測っている。無料で誰でも読める。僕も専門家ではないので要旨と図表を追っただけだけれど、それでもニュースの読み方は変わった。

怖がることと、備えることは違う。 備えは具体的な作業になるけれど、怖がるのは何の作業も生まない。

調べる、と、触る、は違う

最近よく見るのが、この三つだ。

本を読んで学んだ    → AIについて知っている

動画で解説を見た    → AIを見た

AIに聞いたらこう言った → AIに聞いた

↑ どれも「確かめた」ではない

三つとも悪くない。僕も本は読むし、動画も見るし、AIにも聞く。ただ、この三つだけだと、返ってきた答えが外れているときに気づけない。 二段目のDAWの話が、まさにそれだ。あの段落は、外から見たら一番よく書けている。

だから、ひとつだけ提案したい。

AIを試すなら、自分が答えを知っていることについて聞いてみてほしい。

自分の仕事でもいいし、住んでいる街のことでもいいし、趣味でもいい。とにかく、返答の正誤を自分で判定できる領域を選ぶ。5分で終わる。そして、たぶん一発で分かる。どこまでが当たって、どこから作られているのかが。

「情報の正確性が心配」への具体的な一手は、たぶんこれだと思っている。一般論として正確性を心配し続けるのは疲れるし、続かない。でも、自分が採点できる問題を一問だけ解かせてみるのは、今日できる。

そこから先は、環境を用意する話になる。何を試したいのかを決めて、そのために何を触れるようにするかを考える。調べるというのは本来、そこまで含んでいたはずだ。

おわりに

情報を疑え、という話をしたいわけじゃない。疑い続けるのは疲れるし、たいてい続かない。

そうじゃなくて、確かめる手段を1つ持っておこう、という話だ。ひとつでいい。自分が答えを知っている領域を、ひとつ。

それがあると、返ってきた文章の「どこまでが確認された事実で、どこからが埋められた推測か」の境目が、少しずつ見えるようになる。境目が見えれば、全部を真に受けなくて済むし、全部を疑わなくても済む。

僕の場合は、それがDAWだった。やってもいない作業を褒められて、初めて分かった。

この記事で参照したもの

  • 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月17日〜31日実施/有効回答10,312社)
  • 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表Ⅰ-1-2-15「生成AI導入に際しての懸念事項(国別)」/図表Ⅰ-1-2-13「生成AIの活用方針策定状況(企業規模別(日本))」(出典:総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」)
  • arXiv:2603.11214「Measuring AI Agents' Progress on Multi-Step Cyber Attack Scenarios」(2026年3月11日)
  • 検索AIの画面(2026年7月・筆者のアカウントについて質問したもの)

※本記事は筆者個人の見解です。画面の表示内容や仕様は2026年7月時点のもので、同じ質問でも結果は変わり得ます。