AIラベルには「程度」がない。歌詞を書いた曲と、ディープフェイクが同じ一行になる

自分の曲のページに、こう書かれていた。「音声や映像は、AIによって一部変更されているか、すべてAIが生成したものです」。

一部変更、か、すべて生成。その二つを「か」で繋いだ時点で、間にあるものが全部消える。

覚えのない申告が、自分の作品に付いていた

僕はAI楽曲を出している。曲はSuno、ジャケットはLeonardo。ただ、歌詞は自分で書いているし、世界観も構成もジャケットの選定も映像も、最後に決めているのは自分だ。曲によっては歌声も自分のもの(Sunoに自分の声を登録している)。

その動画の「概要」を開いたら、制作の裏側 → AI生成という欄があった。心当たりがなかった。

投稿画面を探して、やっと見つけた。2026年7月時点の投稿画面では、「AI の使用」という項目は「すべて表示」を押さないと出てこない。有料プロモーションやコラボレーションと同じ並びに畳まれている。

僕はこの画面で一度も答えていない。それでも欄は埋まっていた。API経由で投稿しているので、どの経路でその値が入ったのかは自分の側では特定できていない。少なくとも、自分で選んだ覚えのない申告が、作品に表示されていた

しかも文面がこうだ。

YouTube のポリシーに準拠するため、AI の使用について報告していただく必要があります

透明性への協力のお願い、ではない。義務の通告の文体で、ポリシー違反の警告が出るのと同じ面に置かれている。 正直に開示することが、なぜか、悪いことを白状する形になっている。

(画像:投稿画面の「AI の使用」欄/2026年7月21日撮影)

YouTubeは分類する言葉を持っている。使っていないだけ

面白いのは、YouTube自身はちゃんと3つに分けて書いているということだ(2024年3月18日の公式発表)。

開示が必要なケース

① 実在の人物が、言っていないことを言っているように見せる

② 実際の出来事・場所の映像を改変する

③ 実際には起きていない場面を、リアルに生成する

→ 表示されるラベルは、この3つとも同じ一行

僕の曲は、どれにも当たらない。それでも表示は同じ一行になる。

さらに、開発者向けAPIを見ると決定的だった。動画に開示情報を付ける項目はcontainsSyntheticMediaという名前で、2024年10月30日に追加されている。型は真偽値ひとつ。 はい、か、いいえ。粒度を持つ設計になっていない。

そしてもう一つ。ヘルプには「開示が不要な例」も並んでいる。

開示が不要とされているもの

美肌フィルター、色調整・照明フィルター

キャプション生成

映像のシャープ化・アップスケール・修復

台本・サムネイル・タイトルの制作支援

自分自身の声のクローンによるナレーション・吹き替え

つまりYouTubeは、AIの関与が「程度問題」であることを自分の文書の中で認めている。認めた上で、出力は二値にしている。ここが一番おかしいと思った。

それでも「先回り」は正しいと思っている

先に立場を書いておく。僕は開示に反対していない。

実在の人の声に似せたナレーションのショート動画を見て(YouTubeではなく別のプラットフォームだった)、気分が悪くなって、その人が関わっている作品のほうから足が遠のいたことがある。生成AIで作られたアニメを見て、そのアニメ自体を見るのをやめたこともある。開示ラベルが守ろうとしている被害は、僕自身が受けた側でもある。

だから、フェイクに先回りする判断そのものは正しいと思う。

批判しているのは、先回りの解像度の方だ。先回りは正しい。粗さは正しくない。

他のところは、もう分けている

調べていて驚いたのは、「粒度を分けるのは無理」という話が、もう成立していないことだった。

EU AI法(規則2024/1689)第50条4項は、ディープフェイクに開示義務を課しながら、こう書いている(英語正文からの筆者訳)。

当該コンテンツが、明らかに芸術的・創作的・風刺的・フィクション的、またはそれに類する作品の一部を構成する場合、透明性義務は、作品の表示や鑑賞を妨げない適切な方法で開示することに限定される

法律の条文が、ディープフェイクと創作物を書き分けている。適用開始は2026年8月2日。もうすぐだ。

そして音楽の側では、Spotifyが2025年9月25日に、業界標準(DDEX)を使った開示の仕組みを入れている。

Spotifyの開示  AIボーカル / AI楽器演奏 / AIポストプロダクション(ミックス・マスタリング等)

→ どこにAIが関わったかを、工程別に開示できる

Spotifyはこのとき「AIの利用はもはや二値ではなくスペクトラムだ」という趣旨のことを言っている。同じ音楽というドメインで、去年、すでに実装されている。

Metaも似た道を通っている。2024年、軽微な編集の写真にまで「Made with AI」が付いて写真家から抗議が起きたと報じられ、7月に「AI info」へ改称、9月には軽微な編集のラベルを目立たない位置へ移している。結果として、表示の強度は2段階になった。

EU AI法  ディープフェイク/創作物を条文で書き分け

Spotify   ボーカル・楽器・ポストプロダクションを工程別に

Meta    目立つ位置/メニュー内の2段階

YouTube  真偽値ひとつ

解像度は、リスクのある場所に現れる

もうひとつ、日本の資料を見ていて気づいたことがある。

警察庁が2025年7月末時点でまとめた資料に、SNS型投資詐欺の当初接触ツールの内訳が載っている。YouTubeは129件で、前月比79.2%増。資料自身が「『YouTube』の増加率(前月比)が最多」と書いている。接触手段としては「バナー等広告」(350件)が「ダイレクトメッセージ」(318件)を超えて最多になり、そのバナー等広告の内訳でもYouTubeが108件・30.9%で最多だ。

そして国民向けの注意喚起には、「口の動きが不自然」「漢字や数字の読み方がおかしい」——ディープフェイク広告の見分け方が並んでいる。国が、国民に、見分け方を教えている。

総務省の事業者ヒアリング(2024年11月)では、Googleがなりすまし広告への対応を回答している。著名人のディープフェイクを使う広告を検知して専門チームを結成し、自動検知モデルを訓練し、広告主に身元確認を課し、違反時は警告なしでアカウントを止める。かなり細かい。

なお、この資料の中でGoogle自身が「YouTube上の広告(Google広告)はYouTubeとは別のサービス」と断っている。別サービスだ。それでも、同じ会社の中でこれだけ解像度が違うことには、意味があると思う。

詐欺広告 → 行為者レベル・専門チーム・身元確認・即時停止

創作物のAI開示 → 真偽値ひとつ

解像度は技術で決まっていない。リスクのある場所に現れている——そう考えると、あの粗さは技術的な限界というより、優先順位の結果なのかもしれない。(これは僕の推測で、裏付けはない)

全部に貼ると、貼った意味が消える

ここが一番言いたいところかもしれない。

警告は珍しいから効く。該当率が上がるほど、一件あたりの情報量は下がる。

これはAIラベルそのものの研究ではないけれど、隣接する領域には数字がある。セキュリティ警告の研究(USENIX SOUPS 2014)では、注意を強制する仕掛けがない場合、慣れによって反応するユーザーの割合が約3分の1まで落ちたと報告されている。医療のアラート研究(2017年)では、システムによって49〜96%のアラートが無視されるという幅のある報告があり、ある条件下では一度無視したアラートは、次も87.9%の確率で無視されるという結果が出ている。

分野が違うので、そのまま当てはめることはできない。それでも方向としては、全動画の相当数にラベルが付いたとき、最初に読み飛ばされるのは、本当に警告すべきディープフェイクの方だろうと思う。

粗い運用は、厳しすぎるのではない。目的を達成できなくなる。

Pew Research Center(2025年9月)の調査では、米成人の76%が「AIで作られたかどうかを知ることは重要」と答えている。一方、自分で見分けられる自信があるのは12%だけだった。知りたい人は多くて、見分けられる人は少ない。 だからラベルは効いてほしいのに、その効き目を運用が削っている。

答えられない反論もある

正直に書いておく。僕が答えられなかった反論が一つある。

「粒度を上げると、"これは創作です"と偽って軽い区分に逃げ込む抜け道が増えるのではないか」。

これは本当にそうだと思う。EU AI法の「明らかに芸術的」という文言も、誰にとって明らかなのかは曖昧だ。C2PA(来歴を記録する規格)も、署名の正しさは検証できるが申告内容の真実性までは保証しないと自分で言っている。粒度を増やすことと、抜け道を作ることは表裏一体で、僕はここに反論を持っていない。

言えるのは、EU法もSpotifyもMetaも、そのリスクを承知の上で粒度を入れている、ということだけだ。ゼロにするのではなく、運用しながら直す方を選んでいる。

今のところ、こうしている

制度は変えられないので、自分の側で粒度を作ることにした。

ラベルは消せないし、文言も選べない。でもその真下にある概要欄は、自分で書ける。ラベルが言えるのは「何を使ったか」だけで、「どこを人がやったか」は書ける。

(YouTubeのラベル) AI生成:一部変更されているか、すべてAIが生成

↓ その直下に、自分で書ける場所がある

SAKI♮:作詞・世界観・構成・ジャケット・映像・最終判断

AI の使用:楽曲制作(Suno)/画像生成(Leonardo)

「作曲」はどこにも書かない。曲はSunoだからだ。書かないことで、書いてある方が信用される——と思っている。まだ試行錯誤中だけれど。

あと、投稿スクリプトの側で開示を毎回自動で「はい」にした。「すべて表示」を押し忘れる余地を消すためだ。開示自体には賛成しているので、そこは迷わなかった。

これからどうなるか

EU AI法第50条の適用が2026年8月2日に始まる。域外のプラットフォームがどう対応するかで、「創作物は開示の強度を下げる」という考え方が広がるかもしれない。SpotifyのDDEX対応や、C2PAの来歴記録も、工程別の開示という方向を後押しする材料にはなると思う。

ただ、YouTubeが変わるかというと、正直わからない。規模が違いすぎるし、真偽値ひとつのAPIを変えるのは小さい話ではない。

もうひとつ気になっていることがある。「AIラベルが付いた動画のうち、YouTube自身の3分類に当てはまるものは何%なのか」という数字が、どこにも見当たらない。公式発表も第三者調査も見つからなかった。

もし大半が当てはまらないなら、そのラベルは誤認防止の道具として機能していないことになる。これは、自分で数えれば分かる。 そのうちやるかもしれない。

おわりに

僕は開示に賛成している。だからこそ、開示が効かなくなる運用に反対したい。この二つは矛盾しないと思っている。

同じようにAIを制作に使っている人は、あのラベルをどう受け止めているんだろう。気にしていないのか、僕と同じところで引っかかったのか、そのあたりを聞いてみたい。

※本記事は筆者個人の見解であり、法的助言ではありません。法令の解釈や個別の判断については専門家にご相談ください。

参考にした一次情報

  • YouTube公式ブログ「How we're helping creators disclose altered or synthetic content」(2024年3月18日)
  • YouTube公式ブログ「Improving AI labels for viewers and creators」(2026年5月27日)
  • YouTubeヘルプ「改変または合成されたコンテンツの開示」
  • YouTube Data API v3 改訂履歴(2024年10月30日/containsSyntheticMedia
  • Regulation (EU) 2024/1689(AI Act)第50条
  • Spotify Newsroom「Spotify Strengthens AI Protections for Artists, Songwriters, and Producers」(2025年9月25日)
  • Meta「Our Approach to Labeling AI-Generated Content and Manipulated Media」(2024年4月5日)ほか一連の運用変更
  • Bravo-Lillo et al., USENIX SOUPS 2014/Ancker et al., BMC Med Inform Decis Mak 2017(警告飽和)
  • Pew Research Center(2025年9月17日)
  • 総務省「SNS等におけるなりすまし型『偽広告』への対応に関する事業者ヒアリング総括(案)」(令和6年11月11日)/同ヒアリングシート回答(Google)
  • 警察庁「最近のSNS型投資詐欺の特徴について」(令和7年7月末時点)